バイオリンのはなし

楽器と弓の持ち方(その4)

「楽器と弓の持ち方」というタイトルで記事を書くのはこれで4回目である.これは,自分の楽器の持ち方がいまだに完成していない(というか,間違っている)ことを如実に表しているとともに,やはり楽器の持ち方が安定した演奏をする上で重要であることを示していると思う.

第1ポジションでだいたい弾けるようになってくると,次はポジション移動,そして,ビブラートと左手の位置を動かす操作が必要になってくる.この段階になって,自分の左手の持ち方が根本的に間違っていることがわかってきた.

人差し指の付け根の問題

前回のエッセイでは,左手の親指で楽器を支えてしまうと左手が自由に動かないこと,親指の代わりに人差し指の付け根で楽器を支えている感じがあることを述べている.しかし,実はこのことが根本的な誤りであったのである.

ビブラートをかけるときことをイメージしてほしい.ビブラートをかけるときは,弦を抑える指先を支点にして左手を震わせるのであるが,このとき,人差し指が楽器を支えていたのでは左を自由に動かすことはできない.つまり,人差し指の付け根あたりは楽器から自由になっていなくてはいけないのである.実際,左手の指は「卵をつかむように丸く」という指導があるが,指を丸く保つには人差し指は楽器から離れていなくてはいけない.

親指の位置

このことに気付いたきっかけは,レッスンを受けている際に,先生から「左手の親指の位置がおかしい」と指摘されたことである.そして,この日のその後のレッスンは時間中ずっと楽器の持ち方の指導になった.

親指の位置がおかしいというのは,より具体的には「E線を引くときに親指が指板の上に出ている」ということである.レッスンが終わったあとに冷静に考えてみると,親指が上に出ているということは,親指が「上側から」楽器を支えていることを意味している.本来は,親指は弦を抑える他の4本の指に対向する形で機能するべきであるから,親指は「下側から」楽器を支えていなくてはいけない.親指が上側に出て,楽器を下側から支える役割を放棄しているとすると,親指の代わりに楽器を支えている部分がなければならない.そして,これは人差し指の付け根がやっていたというわけである.

E線は一番右側にある絃であり,その分,左手は指板から離れる方向に位置するはずであるから,このときに人差し指の付け根が楽器についているために親指が上に出ていることが顕著になる.このことが,E線を弾いているときにこの問題が発覚した原因だと思う(文章で説明するのは難しい).

結局のところ,ポジション移動をスムーズに行なうには,親指を4本の指で指板を包むように触れて,それを平行移動させることが必要である.この「平行移動できる」イメージがもてるように,楽器の持ち方を変えることになった.

姿勢の問題

さて,頭の中で理屈はわかっても,これを実際に実行することは難しい.特に,今回は長いあいだの癖がついてしまっていたので,それを壊して新しい持ち方に変えるのには苦労している(現在も修正中である).特に,平行移動させるイメージを先にもって,E線だけで弾いているだけならば(あるいは,E線から他の絃に移動するのであれば)問題がないのであるが,音階練習(特にアルペジオ)など,他の絃から移動して弾く場合などは,以前からのイメージが身体にしみついていて,なかなか望ましい指の形にならない.

それ以上に大事な点は楽器を支える肩と胸の状態である.親指と人差し指の付け根で楽器をはさんでいたということは,楽器の重みのかなりの部分を左手で支えていた,つまり,肩とあごで十分に楽器を支えていなかったことを意味している.実際,人差し指の付け根が指板から離れると楽器が不安定で仕方がない.ということで,結局,楽器をきちんと肩と胸で支えることにもどってきたのである.

いろいろと試行錯誤をしているなかでようやく気付いたのは,姿勢をよくしなくていけないという,基本的なことであった.肩と胸で楽器をきちんと支えるためには,やはり背がまっすぐに立っていなくてはならない.ついでにかくと,背がまっすぐになって楽器がしっくり落ち着くと,同時に,肩が下に下がって身体全体がよい感じになるのがわかる.

楽器を弾くときだけよい姿勢をとるというわけにもいかないであろう.ふだんから姿勢をよくしなくては,とあらためて思った次第である.