左手の動き

右手で何とか弓が弾けるようになってきたところで,左手で弦を押さえることも始めましょうということになった.左手も右手同様いろいろなテクニックがあって,繰り返し悩むことになるであろうが,まずはごくごく初心者の感じるところをメモとして残しておく.

楽器の支え方の項でも書いたように,肩で安定して楽器を支えられないあいだは,楽器を落としてしまう恐怖心から左手で楽器を支えがちである.しかし,左手が自由に動かないと弦を自由に押さえることができないので,左手で楽器を支えてはいけない.これについてはそれほど時間をかけずに習得することができた.

4の指

しかし,そこからが問題であった.最初はA線だけ押さえることからスタートしたのだが,4の指(小指)だけがどうやっても所定の位置まで伸びない.ちなみに,バイオリンでは,1,2,3,4は順に,人差し指,中指,薬指,小指を意味し,0はどの指も押さえない(開放弦)を意味する.ピアノでは1は親指で5は小指なので,慣れないうちは混乱する.

4の指は所定の位置になかなか伸びていってくれない.焦らずに手指が柔らかくなるのを待つしかないのであろうか?

指を動かすタイミング

考えてみればあたりまえのことであるが,左手の動きは音程を決めることから,右手が弦を弾きはじめるまえに左手の指の位置が決まっていなければならない.このことは,右手の動きと左手の動きのタイミングがずれていることを意味する.これは,左手も右手も鍵盤を押した時点で音が出るピアノとは違う点である.

このことは,音がきれいに切り替わらないことで実感することになる.押さえる方はまだよいのだが,特に,指を離すときに離すタイミングが一瞬遅くなるので,前の音が残ってしまうのである.例えば,D線で1の指を押さえてEの音を出したあとに,1の指を離して解放弦でDの音に移行するとき,一瞬Eの音が鳴ってしまうということである.頭で考えれば当たり前のことなのだが,この指を離すというのが意外と難しいのである.

このプロセスで起きている物理現象を時間をおってかけば,以下のような感じになるのであろう(もちろん,頭でこれを考えながらやっているわけではない).音が変わる前の拍の裏あたりで,右手は弓を切り返すための準備が始まる.そして,拍のタイミングの直前に弓の動きが一瞬止まり,その瞬間に左指を弦から離す.そして,拍の頭で弓の動きが逆転して次の音が鳴り始める.おそらく,弓の動きが逆転する瞬間に左指を離すのでは遅く,音を始めようとする瞬間には次の音を出す準備が整っていなくてはならないのであろう.

いまのところ,次の音を弾く準備をきちんとしてから弾くことを意識して練習しているところであるが,まだ,完全にはうまくいくようになってはいない.次に左手の話を書くときには,こんなことは全く気にならなくなっているようになっていたいものである.

移弦と左手

 さて,異なる弦のあいだを行き来して音を出すようになると,ある弦を指で押さえたまま,別の弦から音を出すといったことが出てくる.例えば,2の指でD線を押さえてFisの音を出したあと,A線で解放弦でAを弾いて,またFisの音にもどってくるといったときである.これまでは,弦を指で押さえるときに,その指が隣の弦に触れているかどうかはあまり気にしていなかった(気づいていなかったわけではないが,あえて触らないようにしようとはしていなかった)のだが,この状況では,指は決して隣の弦に触れていてはいけないことになる.

 現在,これを練習しているところであるが,新しいテクニックを練習するときの一番の問題は「脱力」が崩れることである.左手の指が隣の弦に触れないようにと神経質になると,自ずと左手はがちがちに力が入ってくる.さらに悪いことは,左手とは無関係な右手にも力が入ってくることである.それまではせっかくうまく脱力できていた手首や指などが,左手が悪戦苦闘しているときに一緒に力が入ってきてしまうのである.こうなってしまうと,いったん弾くのをやめて左右の腕の脱力し,このテクニックと無関係な別の曲を弾いて身体の状態をリセットしてやらないと,どんどん力が入って悪い方向に向かってしまう.

 楽器演奏が心理状態の影響をいかに強く受けるかを毎日のように実感しているところである.