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[[バイオリンのはなし>jViolin]]

*楽器の感じ方の再認識

バイオリンを習い始めてから1年半たった.ここに来て,弓の持ち方,絃の押さえ方といった基本的な感覚を間違って捉えてきたことに気づいて,あらためて,ヒトの感覚の微妙な違いが運動に大きな影響を与えることを痛感している.最近,気づいた三つのことをまとめておきたい.

内容をみればわかるが,微妙な感じ方の違いが,身体や運動課題に対する向かい方を大きく変えてしまう.これが技能習得の難しいところであると実感するとともに,運動研究の難しさを物語っていると思う.つまり,実験者が同じ課題を多数の被験者に課したとき,その課題をどのように感じ,捉えて実行しているかは被験者間で大きく異なる(その結果として,パフォーマンスも異なる)可能性を意味しているからである.

**[[弓の持ち方]]
**''弓の持ち方''
弓を持つときには親指を「くの字」にして弓の角にひっかけるようにしてもつことはどの本にも書いてあるし,そのように習ったし,自分でもこれまでそのようにしてきた.しかし,親指の先が弓とどのように接しているかについてそれ以上詳細に考えたことはなかった.

しかし,あるレッスンの途中(確か4重和音の弾き方だったような気がする)に,先生から「親指はスティックの角にひっかけて持つ」とあらためて言われたあとで家で練習しているときに,スティックに当たる部分が「親指の先の柔らかい部分」であるか「親指の先の堅い部分」であるかによって感覚が大きく違うことに気づいたのである.「柔らかい部分」にあたるとその弾力性のために一種の遊びができるのに対して,「堅い部分」にあたると遊びがなくなって指と弓の一体感が高まるのである.翌週のレッスンで先生にあらためて確認したところ,特殊な奏法をとるときは親指を柔らかく使うこともあるが,通常は堅い部分にあてるということであった.自分は,これまでずっと「柔らかい部分」をスティックにあててもってきたので,弓の操作性がだいぶん劣っていたのではないかと思う.今後の練習でその違いが実感できるとよいと思っている.

**[[絃の押さえ方]]
**''絃の押さえ方''
左の指で弦を押さえるとき,左指先では何を感じるのか?弦を押さえるのだから弦を感じればよいと思うのが自然だと思うし,実際,私もそのようにしてきた.それで,あるレッスン(これも重音を弾くときだったと思う)で先生から「指板(弦の下側にある黒い板の部分)への触れ方」に関してコメントがあったときに,私の頭の中は一瞬「?」となったのだが,あらためて先生に聞き直したところ「指では指板を押さえるのです.そうしないと安定しません」と返答が帰ってきて,おもわず感激してしまった.

この日までも,当然のことながら指は弦と指板の両方に物理的には触れていたのであるが,自分の注意は弦にしか向いておらず指板のことはほとんど意識上らなかった.しかし,指板のことを気にして弦を押さえれば,指先を(弦を押さえる)線あるいは点として感じるのと違って,(指板全体を押さえる)面として感じることができるので,指の安定感がまるで変わってくるのである.つまり,物理的にはほとんど同じ状態であるにもかかわらず,どこに注意を向けるのかに応じて感覚が大幅に変わり,それによって動きの安定性が大きく変わるのである.

このときの自分の気持ちは「いままで自分は何をやってきたんだ」という後悔や反省の気持ちはまったくなく,「指先のそんな微細な感覚の違いが技能の違いに影響するんだ」ということに気づいたことに素直に感激してしまったのである.たぶん,先生はなぜ私がそんなに興奮しているのかわからなかったであろうが,自分には大きな発見であった.

**[[左腕の姿勢]]
**''左腕の姿勢''
一般に,左手で弦を押さえるときには,筋力ではなくて指の重さで押さえるのがよいと言われており,私も余裕があるときは,指にできるだけ力をいれずに弓を押さえるようにしていた.ただ,このときにどこを脱力するのか,という認識がきちんとできていたわけではなかった.

あるレッスンで,先生に「左腕を鍛えてください」といわれて,「鍛えるというのはどういう意味ですか」と聞き直したところ,先生は「左腕の肘まではしっかりと支えて,そこから先をフリーにするのだ」という趣旨の説明をしてくださった.これがまた「目から鱗が落ちる」というべき内容で,「どこをしっかり支えてどこを脱力するか」というイメージをはっきりさせることができた.このコメントはその他二つの意味で個人的に印象に残っている.一つは,古武術の甲野善紀先生がよく口にする「肘から先は自分の身体ではないと思う」という言葉との関連性である.根拠があるわけではないが,いろいろな話をきいていると「姿勢維持や重みを支える仕事にはなるべく手先は参加させない」という原則が有効であるように思えるが,さらに妄想をたくましして「体幹制御は古い脳,手先制御は大脳」と考えれば,弦を押さえる細かい動作は大脳,楽器を支える動作は古い脳という分担をするということがいえるのかもしれない(あくまで根拠のない妄想です).

もう一つは「肘を土台にする」感覚を明確にすると,前腕から弦を押さえる指までが作る面を明確に意識できるようになることである.この感覚は左腕の向きや姿勢を決める上で非常に有用な感覚で,おそらく今後はもっと左指の操作がやりやすくなるのではないかと思って楽しみにしている.